第14回 電帳法とPDF ② ― 電帳法のルールとポイント ―

「国税関係帳簿書類の電磁的記録等による保存」のルール

最新の電帳法のルールをもとにどのような仕組みが必要で、何をどうすればいいのかを考えていきましょう。
まず初めはルール①の「国税関係帳簿書類の電磁的記録等による保存」です。
所得税法及び法人税法では、取引に関して相手方から受け取った注文書、領収書等や相手方に交付したこれらの書面の写しを保存する義務があります。所得税および法人税などで定められている保存義務者は、「帳簿」を備え付けてその取引を記録するとともに、その「帳簿」と、取引等に関して作成または受領した「書類」を、その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間保存しなければなりません。
ほとんどの企業では会計ソフトを使っています。「国税関係帳簿書類の電磁的記録等による保存」はこの会計ソフトの動作のことを指しているといっても過言ではありません。今回ご紹介する電帳法のルールに従う必要があるのは、国税関係帳簿書類の紙での運用を止めて電子化する場合です。法令で定められた要件を満たしている場合には、紙による保存等に代えて、「電磁的記録等による保存等を行う」ことが認められます。
市販の会計ソフトやクラウドサービスが要件を満たしているかどうかは、メーカー等の操作説明書等で確認することができます。また、公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)による要件適合の認定制度*2もあります。認証を受けるとWebで公開されるほか、パッケージ等にJIIMA認証の認証マークを表示することができます。

個人や小規模事業者の場合はどうか

「電磁的記録等による保存等を行う」には様々なコストがかかります。場合によっては既存の「紙に出力して保存等を行う」方法にコストメリットがあると判断する事業者もいるかもしれません。
個人で事業を営んでおられる方は、WordやExcelなどで国税関係帳簿書類を作成して紙に印字した書面や、ノートにメモ書きしているだけといった簡単な事務処理で済ませる方も多いと思われます。しかし、インボイス制度(消費税に関する制度で、正式名称は「適格請求書等保存方式」)開始に合わせて、今後はパソコンで動く会計ソフトやクラウドサービスの導入を検討することをお勧めします。

「国税関係書類のスキャナ保存」のルール

ふたつ目はルール②の「国税関係書類のスキャナ保存」です。
こちらはさまざまな書面をスキャナでスキャンして電子の形で保存するためのルールです。保存先のファイル形式はJPEGなどの画像ファイルやPDFが想定されています。「国税関係書類のスキャナ保存」となった場合の最大のポイントは、オリジナルである書面(原紙)の廃棄が認められる点です。書面をスキャンしてコンピュータに取り込んで管理することはよく行われることですが、「国税関係書類のスキャナ保存」に適合することで、その元になる原紙が不要になるわけです。
「国税関係書類のスキャナ保存」のルールは、税務署への事前承認や、電子署名やタイムスタンプといったかなり厳しい基準と運用のルールが必要でした。ハードルの高さ故、広く普及するには至っていませんでした。
その後、段階的に改正が繰り返され、2021年の税制改正で、2022年1月1日以後に保存を行う国税関係書類については下記のようになりました。

  • ・承認制度が不要。
  • ・受領者等がスキャナで読み取る際に行う国税関係書類への自署が不要。
  • ・訂正又は削除を行った事実及び内容を確認することができるシステムであればタイムスタンプ不要。
  • ・検索機能の確保の要件の緩和(検索項目が取引等の年月日、取引金額及び取引先名に限定)、および税務職員等による求めに遅滞なく応じられるのであれば、範囲指定や組み合わせによる検索機能も要件としない。

スマホでもできる「スキャナ保存」

さらに、スキャナの条件などもかなり緩和され、スマホやデジカメで撮影したデータも、条件さえクリアしていればよいとのことです。
なお、こうした事務的な処理の手順の文書化と、オンラインマニュアルでもよいので、システムの使い方などマニュアルの備付けが別途必要になります。
スキャナ保存に対応する会計ソフトやクラウドサービスも増えてきました。自分の業務が要件に適合しているかどうか不安であれば、これらが提供している手順書やチェックツール*3などが役に立ちます。確認してみてはいかがでしょうか。

「電子取引を行った場合の保存」ルール

最後はルール③の「電子取引を行った場合の取引情報に係る電磁的記録の保存」を見ていきましょう。前回でもご紹介しましたが、「電子取引」とは電子ファイルやWebの画面など電子の形で国税関係書類に関係する取引情報のやり取りをすることです。「電子取引」は、要は紙以外の取引情報と言い換えてよいでしょう。
スキャナ保存も電子取引の場合もこれまではタイムスタンプが必須でしたが、いずれも「事務処理規程」を作成しておくことで、タイムスタンプが不要になります。
国税庁のホームページには、その「事務処理規程」のサンプルが公開*4されており、保存時の要件である各種検索に対応したExcelのファイル検索用シートまで用意されています。
これまでは電子取引情報は書面に出力して保存しておくことも容認されていました。しかし2022年1月1日以降に行われる電子取引においては書面出力による保存が廃止され、電子データでの保存がすべての事業者に義務付けられました。SuicaやPayPayといった電子マネーなど、小口などは電子取引だけということもよくあると思いますが、代替手段として書面に出力して保存しておくことが認められなくなります。
※本件は2024年まで2年間の猶予期間が設けられています。

電子で授受する取引情報を電帳法のルールに沿ってすべて電子で保存・管理したいのなら、授受した電子情報の状態を維持したまま管理しなければなりません。
例えば次のような取引情報を双方で電子の形で保存しておかなければなりません。

  • ・電子メール本文や電子メールに添付されたファイル
  • ・クラウドなどWeb画面を操作することによる電子取引(PDFのダウンロードも含む)
  • ・専用のシステム、ソフトウェアを使う電子取引(EDIを含む)
  • ・電子マネー、ICカード、クレジットカードなどのキャッシュレス決済
  • ・FAX(電子データのままで送受信⇒保存できる場合のみ)
  • ・CDやDVD、USBメモリーなど記録メディアでの取引情報の授受

もし、電子の取引情報を紙にして運用してしまうと、その取引は電帳法ではなく通常の紙の運用になります。
こうした多岐にわたる電子取引情報の保存方法はケースバイケースで、今までのようにスクリーンショットやメールを印刷するという対応は電帳法では認められません(例外あり)。
筆者の印象ですが、このルール③は結構面倒な問題をはらんでいるように見えます。今後、運用していく中で実態に即した改正やシステム側での対応が行われていくのだろうと見ています。

詳しくは国税庁が公開している「電子帳簿保存法一問一答(Q&A)」*1をぜひご覧ください。

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