第15回 電帳法とPDF ③ ― 電帳法対応のPDFを作る ―

電帳法の電磁的記憶に使われる電子データとして最もよく使われると考えられているファイルがPDFです。今回は、電帳法の特に電子取引で使うためのPDFの作り方やその加工について考えてみます。

PDF/Aなら間違いない

電子取引の中でも電子インボイスは特に重要です。電帳法では電子取引データは保存の要件を満たした状態で電子のまま保存しなければなりません。消費税法上の書類は紙でも保存か可能ですが、法人税法などの書類は2024年1月1日以降、電子インボイス(つまりPDFの適格請求書)は電帳法の要件に従って電子のまま保存する必要があります。もし、PDFの品質や保存条件が悪く、適格請求書と認められないと、仕入れ税額控除ができない事態になってしまいます。
電帳法の中にPDFの直接の仕様を規定している条文、施行令や施行規則はありません。ただ、PDFでは頻繁に不具合が起きているのも事実です。例えば、文字化け、文字欠け、文字や図版の表示ができない、表示に未知のパスワードが必要といったことは国税関係書類なら絶対に避けなければなりません。

フォントが埋め込まれていなかったり、文字コードが異なっていると文字化けすることがあります。

こうした不具合を避け、電帳法に最適なPDFを作るにはどうすればよいでしょう。こんな時に役立つのが長期保存のためのPDFの国際規格「PDF/A」です。Aは「archive」=「記録保管場所」を指す言葉から来ています。「PDF/A」にはいくつかバリエーションがありますが、おススメは「PDF/A-2b」や「PDF/A-3b」(WordやExcelなどのファイルをPDFに埋め込む必要がある場合のみ)になります。
一例としてWordからPDF-XChange Editorの機能を使って「PDF/A-2b」に保存する方法をご紹介します。

①リボンの「PDF-XChange」タブから「設定の編集」ボタンをクリック。

②「PDF-XChangeの設定」画面の「設定」タブの「一般」をクリックして、「準拠する仕様」から「PDF/A-2b」を選択して「OK」をクリック。

③もう一度、リボンの「PDF-XChange」タブから「PDFに変換」ボタンをクリック。

④PDF作成処理後に表示される「名前を付けて保存」ダイアログからPDFの保存場所を選択し、ファイル名を設定後、「保存」ボタンをクリック。

PDFの検索要件

電帳法での「電子取引」データは「可視性の確保」のために下記のような「検索機能」が要件として設けられています。

①取引年月日、取引金額、取引先で検索できること。

②日付と金額は範囲指定ができること。

③二つ以上の記録項目を組み合わせた(複合)検索ができること。

ところが、電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】*2の問15や問43によると、実際には税務調査時に即座に画面表示ができれば②と③は不要とのこと。さらに、PDFのファイル名を、取引先と売上金額、日付を入れたものにしておき、Excelで作成した索引簿*3を用意しておけば①もクリアできるそうです。この辺りの要件は2023年度の税制改正大綱でさらに規制が緩和されており、今後も経過とともに変わっていくと思われます。

「真実性の確保」と電子データの改ざん

電子取引のデータ保存のルールには、「真実性の確保」という要件もあります。下記のいずれかが実現できていればよいそうです。

①電子データにタイムスタンプを付与(発行する側・受ける側のいずれでも可)

②訂正や削除を一切禁止する、あるいは、訂正や削除の履歴を残せるシステム(クラウドのサービスを想定)に保存する。

③訂正や削除の作業に関する事務処理規程を定めておく。

タイムスタンプやクラウドサービスはコストがかかるため、③が最も現実的で手軽ではないでしょうか。
ここで課題なのは、作業のプロセスで原本に一切の改ざんを認めない点です。タイムスタンプの場合、受けて側でもタイプスタンプ付与が可能ですが、その際、PDFファイルを修正することになるわけですが、これは例外中の例外でしょう。タイプスタンプ以外、たとえば注釈(コメント)の付与などは原本への改ざんとみなされる可能性があります。
ところで、皆さんは紙の領収書や請求書などに鉛筆でコメントなどを残しておいたりしませんか? 実際の事務運用でこの紙への鉛筆書きは欠かせないという方も多いのではないでしょうか。
こうしたことをPDFで行う場合、多くはPDFに注釈(コメント)を付与して対応します。しかし、この行為は実はPDFのデータを修正する「改ざん」に該当する可能性があります。もし、タイムスタンプを付与した後に注釈を追加すると、PDFを改ざんしたことになり、タイムスタンプが無効になってしまいます。

タイムスタンプ付与後の注釈の追加はタイムスタンプが無効になります。

WordやExcelを使った国税関係書類の作成例

日常的によくある事例をご紹介しましょう。電子取引のデータ保存のルールでは、発行する側もその控えを、所定の期間、保存しておく必要があります。
例えば、WordやExcelなどを使って作成した請求書は、これまでは、紙に出力して社判や代表者印等を押印し、相手方に送るのが普通でした。電子帳簿保存法一問一答【電子計算機を使用して作成する帳簿書類関係】*3の問25によると、こうした場合、代表者印等が表示されていない状態の電磁的記録の保存を、その請求書等の控えの保存に代えることができるそうです。つまり、押印をする前の元データを残しておくだけでよく、押印した状態のものを保存する必要はないわけです。ただし、「電磁的記録で保存することができる国税関係書類」は「自己が一貫して電子計算機を使用して作成する」ものでなければなりません。つまり、手書きで追記したものなどは「電磁的記録」としては一切認められません。修正箇所を手書きして押印するといった対応はできないことになります。
また、請求書や納品書など定型の書類にデータベースからの情報を差し込んで書類を作成することもよくあります。データベースの内容を定形のフォーマットに自動反映させる形で請求書等を作っている場合、税務調査等で税務職員の求めに応じて実際に相手方へ送付したものと同じ状態を定形のフォーマットに出力するなどの方法によって遅滞なく復元できればよいそうです。
これまでは実際に送付したもののコピーや、スキャンして残していた方も多いと思いますが、ルールをよく理解して上手に運用すると、実務の効率をかなり改善できそうです。

さいごに

PDFの電子文書としての社会的地位は不動といってよいでしょう。今後もそれは変わらないように見えます。PDFが使われはじめて約30年*1、未だにPDFに取って代われる電子データの候補が現れてきません。今後もしばらくはPDFがデジタル社会をけん引し続けることになるでしょう。
ここまで読んでいただいた方に、そのお礼として、今回の記事で最もお伝えしたかったこと、大事なポイントを最後にご紹介します。実はどの製品を使うかが最も大事で、信頼のおけるメーカーの優れたPDF製品を使うのが肝要なんです。
世界中に数多く販売されているPDF製品ですが、実はその技術力にはかなりの差があります。では、どの製品を選べばよいのでしょう。私なら、昔から高機能な製品を世界中で販売し続けている会社の製品をチョイスするでしょう。
PDFの基本仕様は長年ほとんど変わっていません。ソフトウェアの世界では、同じ製品を長年販売し続けることで、細かな不具合が改善すると同時に、製品の機能が成熟することで品質が安定します。PDF製品には目新しさではなく、こうした安定性、安全性が今一番求められているといってよいでしょう。PDF-XChange Editorはこうした条件に最も近い製品のひとつです。電帳法の運用を契機に、PDF製品の見直しを検討してみてはいかがでしょう。

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