クリエイティブ・インスパイア

現代美術の専門誌を中心に事業展開する「美術手帖」と、簡単に本格的なデジタルペイントが楽しめるペイントソフト「openCanvas」によるコラボレーション企画です。5名の若手アーティストが、「openCanvas7」を用い、新たな表現を切り拓きます。そこではどんな化学反応が起こるのでしょうか。openCanvasで作品を制作したその手応えに迫ります。

vol.1 さいあくななちゃん

動画は、私が生きている瞬間みたいなものを、
ずっと見せてくれるんだ───

ぼくはかちます!

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第21回岡本太郎現代芸術賞、通称「TARO賞」で大賞となる岡本太郎賞を受賞したさいあくななちゃん。アクリル絵具からクレヨン、化粧品まで幅広いメディウムを用いる彼女が今回、ペイントソフト「openCanvas(以下、oC)」を使用。初となるデジタルでの作品制作について、感想を聞きました。

デジタルならではの表現の広がり

── 今回は初のデジタルでの制作ですが、自分の中ではこういう風に描こうみたいなものは最初からあったのですか?

ななちゃん なかったですね。私は普段から、初めにプランを決めて制作するということをあまりやらないんです。いつも通り自由に描きつつも、デジタルならではの作品にしたいということだけ意識しました。だから、oCの機能を一つひとつ試して研究しました。以前からグラフィティにとても興味があって、スプレーを使ってみたいと思っていました。家だとスペース的に不可能で諦めていたのですが、oCだったらできるな、と。

── スペースに気兼ねなくできる。

ななちゃん これだと服も汚れないし(笑)。あとオリジナルブラシ機能もよく使いました。ブラシをイチゴの形にして描いていく。アナログだとひとつずつ描かないといけないのに、100個くらい一気にできる!

── 細かく見るとたくさんの機能が使われているけど、全体的にはとてもななちゃんらしさがありますよね。

ななちゃん ダンボールや自撮りの写真をコラージュしたりもしました。結局消しちゃったのもありますが、それがいつも通りの自分のスタイルで、何かちがうなと思ったら、とりあえず消すんです。それでも意図せず残っているものが、私の場合は結構重要なんですよね。そこに一番可能性があるんじゃないかと思っています。

── いつもだと、絵を何枚も描いて最後にインスタレーションとして1つにしていますよね。でも今回の作品では、1枚のなかにどんどん描き溜めています。そのあたりはいかがでしたか。取捨選択や再構築をしない、というのにやりにくさなどはありましたか。

ななちゃん それはなかったです。過剰さがほしいと思っていたので、描いた絵も感情も、勝手に溜まっていくことがよかったです。勝手に過剰になっていく。あと、描くときに聞く音楽を変えました。普段はエレカシ(エレファントカシマシ)を聞くのですが、いつもと制作の仕方がちがうので、体が乗ってこなくて音楽も変えたいなと思い 、打ち込み系の音楽に変えました。

── 音楽もデジタルに(笑)

ななちゃん そのほうが今回は合いましたね、馴染むんですよ。後半はヒップホップを聞いたのですが、もっと過剰に、と思って、最後はパンクを聞きました。それでやっと、さいあくななちゃんらしさが出たぞって思えるようになりました。

ななちゃん デジタルって基本的には色も形もきれいにパッチリ出ると思うのですが、水彩ペン機能はいつものアナログの感じが出せるので、よかったです。あとは、乗算とか覆い焼きといったレイヤー効果を変える機能は楽しかったですね。ドリッピングのように、意図しないかたちに流れる表現が私は好きで。デジタルではそれが起こらないと思っていたのですが、この機能ではそれが勝手に起こるんですよね。勝手に色や雰囲気が変わる。デジタルでも、偶然性というかアナログに近い表現もできるんだなって思って、それが面白かったですね。

── 制作の過程を見れる、イベント機能はいかがでしたか?

ななちゃん 私は、「いま」を描こうっていう気持ちがすごく強いんです。いまの瞬間の感情を残そうとしたときに、その感情ってなんだろう、と考えたら、その時点で少し冷めちゃう気がするんですよ。だから本当に何も考えずに、ばーっと描くのが自分にとって重要なんです。アナログで描いてると私の毎日の制作活動は記録に残らないので、動画を見てすごく生っぽいな、と思いました。私が生きている瞬間みたいなものを、ずっと見せてくれるんだって。私、音楽を大切にしているので、自分で作詞作曲もしているんです。オリジナルの曲が動画に乗って混じり合ったら、すごく面白いものになりそうですよね。

── 一般的には、きれいに塗るための作画機能だったり、確認するためのイベント機能なのですが、もっと自由に表現のために遊んでもいい気がします。そういう一例として、oCの可能性を切り開ければ、と思いました。

《ぼくはかちます!》のイベント機能動画を用いて、さいあくななちゃんが作詞作曲した楽曲「らめちゃん」のPVを作成

やっぱり、勝ちたい。

── 作品のタイトルですが、何故「ぼくはかちます!」なのですか? TARO賞を取って評価されたのだから「ぼくはかった」でもいいのに、未来形の文になっている。

ななちゃん たしかに……。まだ闘志に燃えている、というのがあるのかもしれないです。TARO賞をいただいても、これでもう達成した!という気持ちはなくて、まだ勝ったり負けたりしているような気持ちなんです。「毎日うまくいかないな」って思うことがあったり、いっぽうで「やっとモノになってきた!」ということもある。なので、やっぱり、また勝ちたい!と思うんです。

── 秋にはニューヨークで短期滞在する予定だそうですね。

ななちゃん はい。TARO賞で浮かれたりして、自分は全然だめだな、って。もっと独りになって面白いことをやらなきゃだめだって思って、決意しました。賞金を全部使って行こう!みたいな。

── すごくいいタイミングで行かれるな、と思いました。今後の活躍も、ますます楽しみにしています。ありがとうございました。

撮影=嶋本麻利沙

Profile

1992年山梨県生まれ、神奈川県在住。2014年に自身の描いた絵がバイト先の同僚に「最悪」と言われたことをきっかけに、自身の本名である「なな」に「さいあく」を付け、さいあくななちゃんとして現代美術の異端児としてアーティスト活動を行っている。
第21回岡本太郎現代芸術賞 岡本太郎賞 受賞

新作《ぼくはかちます!》の 作品は完売となりました。

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